Co-Creation(共創)を生み出す新たな手法「ハッカソン&アイデアソン」(前編)
ハッカソン/アイデアソンとは? その類型と特徴、開催事例
アイデアソンとハッカソンの概要と、その事例を紹介。多様なハッカソン/アイデアソンを理解しやすいように、「テーマ」「主催者」「目的」という切り口で分類する。
「ハッカソン」「アイデアソン」という言葉をご存じの方はどれくらいいるだろうか。IT業界を中心に、2013年ごろから話題を集め、2014年に入り、一気に全国各地へ広がり、盛り上がりを見せる共創型(Co-Creation)のイベントだ。
国内では当初、ITコミュニティ主催での開催が多かったが、最近では、docomoやTBS、ローソンといった大企業の他、経済産業省や自治体などの公的機関による主催も増えつつある。また、IT領域のみならず、商品開発や地域活性化、まちづくりなど、多彩な領域で開催が相次いでいる。
しかし、まだまだ聞き慣れないといった声や、いったいどんなイベントなのか、メリットや課題は何かなど、分からない点も多い。われわれCCLは、これまでさまざまな領域で開催されるアイデアソン、ハッカソンを直接、間接にサポートを続けてきた。
そこで今回は、前後編の2回に分けて、アイデアソン/ハッカソンの概要と、その特徴、運営における課題について整理し、われわれの経験を共有したい。
1. ハッカソン、アイデアソンって何?
「ハッカソン(Hackathon)」とは、ハック(Hack)とマラソン(Marathon)を掛け合わせた造語だ。エンジニア、デザイナー、プランナー、マーケティターなどがチームを作り、与えられたテーマに対し、それぞれの技術やアイデアを持ち寄り、短期間(1日~1週間程度)に集中してサービスやシステム、アプリケーションなどを開発(プロトタイプ)し、成果を競う開発イベントの一種を指す。
その始まりは、1999年ごろ、アメリカのIT企業やスタートアップ領域で使われ始めたとされ、旧Sun MicrosystemsやGoogle、Apple、Facebookなどが相次いで開催したことで知られるようになった。日本では当初、2011年に震災復興への貢献活動としてITコミュニティが手がけたほか、楽天やヤフーなどといったIT企業を中心に開催されてきたが、近年では、IT業界に限らずさまざまな領域での開催が報告されるようになっている。
「ハック」「ハッカー」は、日本ではネガティブなイメージで捉えられることも多い。しかし、元来、システムやソフトウェアを解析・改造するなど、「たたき切る」「切り刻む」「耕す」という本来の言葉の意味通り、「物事をブラッシュアップしていく」という意味合いを持つ。
「アイデアソン(Ideathon)」は、アイデア(Idea)とマラソン(Marathon)を掛け合わせた造語で、ある特定のテーマについて多様性のあるメンバーが集まり、対話を通じて、新たなアイデア創出やアクションプラン、ビジネスモデルの構築などを短期間で行うイベントのことを指す。
アイデアソンは、当初、「ハッカソンの事前会議」との位置付けや、「ハッカソンの導入部に行われるアイデア創出」を指していたが、近年では、アイデアソン単独で開催されるケースも増えており、地域づくりプランやレシピ・商品・サービスの開発、新規事業開発など、非IT領域で開催されることも多い。
2. 国内の開催事例の紹介
では、国内で開催されているハッカソン/アイデアソンの事例を紹介しよう。
Hack Day/Hack U(主催:Yahoo! JAPAN)
Yahoo! JAPANは、エンジニアやデザイナーが有する創造力やアイデア、そして、情熱を解き放つ、ということを目的に、「Hack Day」「Hack U」と呼ばれるハッカソンを開催し(※各国のYahoo!でも開催されている)、プロトタイプ開発を行い、新たなサービス開発へつなげている。
24時間というタイムリミットと、90秒という短いプレゼンタイム。日常の業務から離れ、自由な発想で、アイデアと技術を駆使し、クリエイティブなサービスを具現化し、プロトタイプを発表する。Yahoo! JAPAN社内から300人近くが参加する人気のイベントとなっているという。
Yahoo! JAPANが開催するハッカソンは大きく3つ。
1つは、Yahoo! JAPANの社員と一般の開発者、デザイナーが一緒になって組織や年齢の枠を超えて競い合う「Open Hack Day」。第2回目となった2014年2月の開催では、82組、339名が参加し、IDCフロンティアの“IaaS型クラウドサービス”やアフレルの“教育版レゴマインドストーム EV3”、NHKの“NHK番組表API”などのAPIの他、セイコーエプソン株式会社の“スマートグラス”などのデバイスが提供され、堂々と「歩きスマホ」ができるアプリケーション“SmartWalk”や、妊婦が電車を利用する際にみんなで助け合うマタニティバッジ“Mommy Ring - 妊婦さんお助けシステムなど、多数のプロトタイプが開発された。
この他、Yahoo! JAPANでは、グループ社員のみを対象とした、「社内Hack Day」も開催。
さらに、大学と連携した「Hack U」を開催するなどしている。
この3つ以外にも、2012年に初めて開催された「石巻ハッカソン」にも、社員を数十名規模で参加させている。
デバイスハッカソン(主催:NTTドコモ×NTTドコモ・ベンチャーズ)
NTTドコモ×NTTドコモ・ベンチャーズは、ハッカソンキャラバンとして、各地でハッカソンの開催を進めている。2014年6月21日~22日に大阪で開催された「デバイスハッカソンin大阪」では、ゼンリンデータコム:いつもNAVIのAPI(限定提供APIあり)や、日本経済新聞:日経電子版の記事などのAPI(ハッカソン限定提供)など、13社からデバイスやAPIが提供され、34名の参加者がアイデアソン→チームビルド→ハッキングを行った。
子どもたちの理解度や集中度を、顔認識機能などを活用してモニタリングする“ここみる”、HMDを通じ、ココロボ上にAR技術によりキャラクターが表示され、表情に反応して単純な音声を出力できるツール“My Girl”といったサービスプロトタイプが開発された。
ものアプリハッカソン(主催:大阪イノベーションハブ)
大阪市では、ハッカソンをハードウェアの世界に持ち込んだ、「ものアプリハッカソン」を1泊2日で行っている。中小製造業が集積する地場の強みに、ITの力を融合させた「新しいものづくり」を目指しての開催だ。
ハードウェア技術者、ソフトウェア技術者、デザイナー、マーケターなど44名が10のグループに分かれ、ユーザーの設定や提供価値の定義、製品コンセプトの構築などを、デザイン思考を取り入れたワークショップ形式で行い、チームでプロトタイプ開発を進めた。
2013年1月の開催では、仕事が忙しい子育て世代へ向けた“ホーム・プラネタリウム”や、感覚的なインターフェースを用い、パートナーとのけんかを防止するコミュニケーション機器などが成果として発表された。また、ここで出会ったチームが起業して生み出した装着型のスマートトイ「Moff」は製品化され、2014年7月時点で、初期ロットの予約販売までこぎ着けている。2013年7月には、開催を引き継いだ大阪イノベーションハブで第2回目も開催され、36名、8チームが開発に取り組み、長時間のデスクワークによる姿勢のゆがみを解消する“The Butoon:TEAM KINTOON”や、仕事に忙殺されるビジネスマンに、気持ちを和らげる瞬間を提供する“ふっとオフ:チームふっとオフ”などのプロトタイプが開発された。
ReHack(主催:リクルートグループ)
リクルートグループは、グループ企業が抱える事業課題に対し、社内外のエンジニアやUI/UXデザイナー、企画開発ディレクターがチームを組んで、自由にアイデアを出し合い、Webサービスやアプリケーションの開発を2日間で行う、ハッカソン“ReHack”を2013年11月~12月に開催している。
ここでは、リクルート各社が保有するAPIを用いて、仕事・住宅・旅行・ファッション・マーケティングなど、リクルートが得意とする事業領域のテーマを選び、テーマに沿った製品やサービスのプロトタイプ開発を実施する。
約32名の参加者が、まずは、1泊2日で、チームビルディングとアイデアソンを行い、整理されたアイデアを基に、開発を行い、中間発表を行った。そして、そこで相互にフィードバックや審査員からのコメントを受けて、1カ月後の最終プレゼンまでに、サービスのブラッシュアップを重ね、周辺の最も近い施設を1クリックで検索できるアプリ“スポッチ!”や、旅行のスケジュールを簡単に作成・共有できるアプリ“旅のしおり”、女性向けのニュースサイトなどのAPIを利用し、独自の情報をキュレーションする“chiroru news”といったWebアプリなどの多数のサービスプロトタイプが発表された。
オープンデータ・ハッカソン in Gifu(主催:岐阜県・株式会社CCL)
2013年11月30日~12月1日、岐阜県・株式会社CCLでは、オープンデータの活用を目指した、「オープンデータ・ハッカソンin Gifu」を開催し、岐阜県内はもちろん、静岡県、北九州市、山形県など、各地から33名が参加した。
「水とIT」をテーマに掲げ、観光・防災・歴史(教育)など、参加者が自由に発想し、アイデアを共有、アプリケーションのプロトタイピングを行い、成果発表では、地元のまちづくり活動などを行う市民審査員に登壇いただき、地域で暮らす住民目線でサービスの評価を行った。
開発されたプロトタイプは、「岐阜の名水」というLinked Open Dataを使って、湧き水スポットを街歩きで探したり、風景画を撮影できるアプリ“湧き水ウォーク『湧歩』”、雨の音を楽しめるアプリで、降水量に合わせて6段階の音色が楽しめたり、室内にいても音だけで天気が分かったりなどの機能を搭載した“雨音”など、オープンデータを活用した遊び心のあるアプリのプロトタイプが開発された。
3. ハッカソン&アイデアソンの類型とその特徴
このように、ハッカソンやアイデアソンといってもかなり多様であることが分かる。そこで、いくつかの切り口から、その分類をしてみたい。
1テーマ
アイデアソンやハッカソンが開催される主要なテーマとしては、「IT」「スタートアップ」「新事業創造(商品・サービス開発を含む)」「地域活性化」「オープンデータ」などに部類できる。
IT領域:
IT領域の技術開発やサービス開発を目的に開催されるアイデアソン/ハッカソンで、IT企業やITコミュニティなどが主催する。
スタートアップ領域:
起業家育成や短期間で事業化を図ることを目的に開催されるアイデアソン/ハッカソンで、スタートアップアクセラレーターやベンチャーファンドなどが主催する。
新事業創造領域:
新サービスや新商品、新事業開発を目的に開催されるアイデアソン/ハッカソンで、大企業や支援機関などが主催する。
地域活性化領域:
地域活性化やまちづくり、地域課題の解決を目的として開催されるアイデアソン/ハッカソンで、地方自治体やまちづくり団体などが主催する。
オープンデータ領域:
オープンデータの利活用を目的に開催されるアイデアソン/ハッカソンで、公的機関やオープンデータ推進機関などが主催する。
2主催者
アイデアソン/ハッカソンの主催者としては、主に「公的機関」「企業」「コミュニティ・団体」「大学・研究機関」が挙げられる。
公的機関:
国や地方自治体などの公的機関が主催するアイデアソン/ハッカソンで、オープンデータの活用や地域活性化、起業家育成などを目的に開催される。これらは、2011年8月に岐阜県がソフトピアで開催したことを皮切りに、全国各地で広がりつつある。
企業:
企業が開催するアイデアソン/ハッカソンで、オープンイノベーションや自社サービスのブラッシュアップ、組織改革、社員研修など目的に開催される。
コミュニティ・団体:
各種コミュニティが開催するアイデアソン/ハッカソンで、それぞれのコミュニティの興味関心のあるテーマの未来を考えることや、異分野との共創を目的に開催される。
大学・研究機関:
大学や研究機関などが開催するアイデアソン/ハッカソンで、保有するシーズの活用や教育的な効果を目的に開催される。
3目的
アイデアソン/ハッカソンの開催目的を見ると、主に「課題領域特定型」「データ・技術連動型」「教育・研修型」に分けられる。
課題領域特定型:
地域課題や社会的課題、事業者やある特定領域における課題解決を図ったり、あるいは、未来の新しいニーズを描き出したりするために、実用性のあるプロダクトを目指し、プロトタイプ開発を行う。
データ・技術連動型:
ある特定のデータ(オープンデータやAPI提供)や技術を元に、その改善や新たな活用方法、新たな価値を生み出すサービス・商品のプロトタイプを開発する。
教育・研修型:
社員や学生の教育や研修を目的に行われるアイデアソン/ハッカソンで、チームでの協働や組織を超えたネットワークの形成、異業種との交流を目的に開催。
以上、アイデアソン/ハッカソンの分類を紹介したが、実際の場面では、これらが組み合わせられて開催されている。
■
後編となる次回も引き続き、アイデアソン/ハッカソンの開催方法や、成功させるポイントと課題について説明する。
1. 【現在、表示中】≫ ハッカソン/アイデアソンとは? その類型と特徴、開催事例
アイデアソンとハッカソンの概要と、その事例を紹介。多様なハッカソン/アイデアソンを理解しやすいように、「テーマ」「主催者」「目的」という切り口で分類する。
2. ハッカソン/アイデアソンの開催方法、成功させるポイントと課題
アイデアソン/ハッカソンを実際に開催するには? 開催の流れ/体制/構成要素について説明。また、これまでの経験から得られた、成功させるためのポイントや、アイデアソン&ハッカソンが抱える課題について紹介する。