Windows上のBashシェル入門【Windows 10 Fall Creators Update対応】(2)
Windows Subsystem for Linuxを使って「開発」をしてみよう
WindowsとWSL(Windows Subsystem for Linux)の間でファイルシステムを上手に相互運用するためのヒントや、WSLを活用してクロスプラットフォームな開発を行う方法を説明する。
前回は、Windows Subsystem for Linux(以下、WSL)の概要とインストール方法を説明した。今回は、より実践的な内容として、WSLとWindowsでファイルシステムを上手に相互運用するためのヒントとして、Windows側のファイルパス作成時の注意点を紹介する。また、WSLを活用してクロスプラットフォームな.NET開発を目指したい人に向けて、ASP.NET Coreサイトを動かす方法と、WindowsからLinuxネイティブバイナリをデバッグする方法を説明する。
Windowsとの相互運用
WSLとWindowsではもともとの思想の違いや、互換性の歴史などから異なっている点が多くある。前述のQ&Aでも取り上げた「パス名の長さ」などはその最たるものの一つだ。
前回述べたとおり、WindowsカーネルおよびNTFSでは64KB(UTF-16で3万2767文字)までは扱えた。しかし、長いファイル名を扱うには、以下のようにいくつかの条件があった。
- Win32のC/C++のUnicodeアプリケーションとして提供する
- 特殊な表記(パス名の先頭に
\\?\
を付加する)を内部で行う必要がある - .NET Frameworkではサポートしていない
恐らく、「WSLでは長いファイル名/パス名が多く生成されるようになる」という理由から、Windowsでも長いパス名に対する改良が行われることになったのだろう。ただし、現在流通しているほぼ全てのアプリケーションが上記の長いパス名をサポートしていないため、使用するにはOSとアプリケーションの設定を変更する必要がある。その設定方法については、英語になるが「公式ブログ:.NET 4.6.2 and long paths on Windows 10」を参照してほしい。
ASP.NET Coreサイトを動かす
それではここからは、LinuxやmacOSもサポートしているASP.NET Coreアプリケーションを、WSLのLinuxインスタンス(今回は「Ubuntu」)で実行してみよう。
WSLでUbuntu環境に.NET Coreをインストールする
まずは.NET Coreをインストールする。
インストール方法は「.NET Core公式サイト:Install .NET and build your first app on Ubuntu or Mint(英語)」でまとめられているので、最新の手順はそちらを参照してほしい。以下でも執筆時点の手順を参考情報として示しておこう。なお、執筆時点でのWSLはUbuntu 16.04 LTS(Long Term Support)なので、公式サイトの説明でも「Ubuntu 16.04」の方法を使用すればよい。なお、本稿ではapt-get
コマンドの代わりにapt
コマンドを使っているが、使い方はほぼ同じである(※Ubuntu 16.04からはapt
コマンドの利用が推奨されている)。
1まずはリスト1の手順で、.NET Coreパッケージ配布用リポジトリのフィードをapt
のパッケージリストに追加する。
curl https://packages.microsoft.com/keys/microsoft.asc | gpg --dearmor > microsoft.gpg
sudo mv microsoft.gpg /etc/apt/trusted.gpg.d/microsoft.gpg
sudo sh -c 'echo "deb [arch=amd64] https://packages.microsoft.com/repos/microsoft-ubuntu-xenial-prod xenial main" > /etc/apt/sources.list.d/dotnetdev.list'
sudo apt update
|
1行目を実行すると「sudo: unable to resolve host <ホスト名>」というエラーが表示される場合は、sudo sh -c 'echo 127.0.1.1 $(hostname) >> /etc/hosts'
というコマンドを実行して、hostsファイルにホスト名を追加してやる必要がある。
追加後、.NET Coreパッケージがapt
コマンドで利用可能になる。あとは、apt install <パッケージ名>
コマンドでそのパッケージをインストールできる。
2そこで次にリスト2の手順で、.NET Coreパッケージ(=開発用の.NET Core SDK)をapt
でインストールする。
sudo apt install dotnet-sdk-2.0.0
|
ちなみに、現在の.NET Coreは「ランタイム」「dotnet
コマンド」「開発キット」がそれぞれ別のバージョンのように見え、非常に分かりづらくなっているので注意してほしい(※詳しくは「こちらの記事の「.NET Coreのバージョン名について」」を参照されたい)。.NET Coreランタイム/SDKの最新バージョンおよび、過去バージョンは、「GitHubのReleaseページ(英語)」でチェックしたりダウンロードしたりできる。
【コラム】.NET Coreのサポートライフサイクル
.NET Coreでは、サポートライフサイクルとして、Long Term Support(LTS)とCurrent Releasesの2種類が提供されている。基本的にLTSは「1.0」「2.0」……というメジャーリリースに適用され、Current Releasesは「1.0.0」「1.1.0」……というマイナーリリースに適用される。
LTSは、正式リリースから3年間、もしくは次のLTSリリースがあればそのリリース日から1年間サポートされる。例えば.NET Coreランタイムのバージョン1.0.0
は、2016年6月27日にリリースされたので2019年6月27日まで(3年間)サポートされるが、もし次のLTSリリースがあればその12カ月後まで(1年間)に短縮される。
Current Releasesは、親の(=最も直近の)LTSリリースと同じ3年枠の期間、もしくは次のLTSリリースがあればそのリリース日から1年間、もしくは次のCurrent Releasesのリリースがあればそのリリース日から3カ月間サポートされる。例えば2016年11月16日にCurrent Releasesでリリースされた.NET Coreランタイムのバージョン1.1.0
は、親のLTSと同じ2019年6月27日まで(3年間)サポートされる予定だが、もし次のLTSリリースがあればその12カ月後まで(1年間)、もしくは次のCurrent Releasesリリースがあればその3カ月後までに短縮される。
ユーザーは、LTSとCurrent Releasesのどちらかを選択できる。安定した技術を長く使いたい場合はLTS(執筆時点なら.NET Core 1.1.4)を、最新版をいち早く使いこなせるならCurrent Releases(執筆時点なら.NET Core 2.0.0)を選択すればよいというわけだ。.NET Coreのサポートライフサイクルの詳細は「.NET Core Support Lifecycle」(英語)で解説されている。
コンソールアプリケーションを構築する
ここから先はWSLの利用例というよりも、.NET Core SDKの使い方の話になる。WSLで開発してもMacやLinuxと同様の手順が実現できることを示すために、また、ここまで手順どおりに試してきた方が実際にASP.NET Coreアプリケーションが動くところまで無事に進められるように、蛇足ながら、以降の開発手順のポイントを示しておくことにしよう。
Hello Worldアプリケーションを実行するだけなら簡単だ。アプリケーション用のプロジェクトを作成したいフォルダーに移動して、以下のコマンドを実行する。各コマンドの意味については本稿の趣旨から外れるので割愛する。
dotnet new console -o buildinsider
cd buildinsider
dotnet run
|
もちろんこのプロジェクトは(WSLだけでなく)Windows上でも実行可能だ(図2)。ちなみに、ソースコードをGitなどのリポジトリから取得した場合は、必ずdotnet restore
を実行しないと、ビルドに必要なファイルを復元できないので、注意してほしい。
【コラム】.NET Coreのプロジェクトファイル形式変更について
.NET Core SDK 1.0 Preview 3(dotnet-dev-1.0.0-preview3-004056)以降、.NET Coreのプロジェクトファイルが、JSON形式のproject.jsonファイルからMSBuild形式の.csprojファイルに変更された。既存のproject.jsonファイルはdotnet migrate
コマンドで移行できるが、プロジェクトが参照しているパッケージに関しては移行が行われないため、注意してほしい。
ASP.NET Coreアプリケーションを構築する
.NET Core SDK 2.0.0にはVisual Studioと同じテンプレートが内蔵されており、Visual Studioがなくても、基本的なアプリケーションの作成が可能になっている。内蔵されているテンプレートはdotnet new -l
コマンドで表示される(図3)。
以下に示すように、コンソールアプリケーションと同じ手順でWebアプリケーションの作成が可能だ。
dotnet new mvc -o buildweb
cd buildweb
dotnet run
|
ターミナルに“Application started”という表示が出るまで待ってから、Webブラウザーでhttp://localhost:5000/
にアクセスすると、シンプルなASP.NET MVCのWebアプリケーションが実行されていることが分かる(図4)。実行中のASP.NET Core WebアプリケーションはターミナルでCtrl+Cキーを押下することで終了できる。
WindowsでLinuxアプリケーションの開発
今までもWindowsでLinuxの実行ファイルを生成するクロスコンパイラーが提供されている開発環境はあったが、Visual Studio 2017より正式にLinuxのコンパイラーが搭載され、リモートデバッグ環境も用意された。
WSLと併用することにより、限定的ではあるが、Linux仮想環境を用意することなくビルドやデバッグも可能になる。
WSLのリモートデバッグ設定
まず、WSLのUbuntuにリモートデバッグ環境を用意する。既にインストールしたパッケージの依存関係によってはインストールされているパッケージもある。
sudo apt install -y build-essential
sudo apt install -y gdbserver
sudo apt install -y openssh-server
|
sshdをインストールしたら、/etc/ssh/sshd_configファイルを編集して、パスワード認証を有効にする。具体的には図5のように、選択反転している“PasswordAuthentication”のところを“yes”に変更する。図5ではエディターとしてGNU nanoを使用しているが(リスト6)、vimなどの任意のもので構わない。
sudo nano /etc/ssh/sshd_config
|
次に、SSHの鍵を作成する(リスト6)。
sudo ssh-keygen -A
|
最後に、sshサーバーを起動しておく(リスト8、図6)。
sudo service ssh start
|
これでWSL側の設定は完了だ。
Visual Studioの設定
前述したように、Visual Studio 2017からLinux開発環境が標準サポートされた。Visual Studio 2017のインストーラーで[C++ による Linux 開発]コンポーネントにチェックするとインストールされる。なお、コンパイラーが入っているわけではなく、プロジェクトテンプレートがインストールされるだけで、接続するLinuxにインストールされているコンパイラーを使うようだ。
ビルドおよびデバッグ
実際にC++によるLinux開発を行うには、Visual Studioからプロジェクトの新規作成を行うときに、左側のツリーにある[Visual C++]-[クロス プラットフォーム]の中に[Linux]というカテゴリがあるのでこれを選択して、中央のテンプレート一覧から「コンソール アプリケーション (Linux)」を選択する(図8)。
ここではビルドとデバッグを試すために、加算するだけのプログラムを用意して、ブレイクポイントを設定してから実行してみよう(図9)。
この状態でコンパイルを実行すると、WSLのLinuxインスタンス(今回はUbuntu)への接続ダイアログが表示される(図10)。ホスト名は自ホストなので[Host name:]欄には「localhost」を、[User name:]欄と[Password]欄にはUbuntuのユーザーとパスワードを指定する。他の入力欄はデフォルト値のまま、[Connect]ボタンをクリックしてWSLに接続する。
図10の接続ダイアログの情報は、一度指定するとVisual Studio内に保存される。設定を変更したい場合は、[オプション]ダイアログの[Cross Platform]から変更可能だ(図11)。また、「どのLinuxマシンに接続するか」といったリモート接続情報は、プロジェクトごとに指定できる(図12)。
最後に、Visual StudioでF5キーを押せば、デバッグが開始される。もちろん、Visual Studio内で開発しているときと同様に、ローカル変数や呼び出し履歴の参照も可能だ(図13)。
注意してほしいのは、Visual Studioでコンパイルを行っているのではなく、リモートのLinux(今回はUbuntu)に接続してソースコードをsshでコピーしたうえでビルドしているという点だ。ソース管理は必然的にWindows側で行うことになる。
そのため、継続的インテグレーションでビルドする場合に、WSLを使おうとするとWSLのLinuxインスタンスが常時起動している必要があり、あまり好ましい使い方ではない。よってWSLではなく、ビルド用のLinuxマシンを用意して、そこでビルドを行うように接続設定を行ってほしい。WSLでのビルドはあくまでも補助的に使用してほしい。
まとめ
今回はWSLを活用してクロスプラットフォームなASP.NET Coreおよび、Visual StudioでLinuxネイティブアプリケーションのビルドおよびデバッグを行う方法を説明した。
WSLではまだLinuxのソフトウェアが100%動くわけではない(恐らくマイクロソフト自身もそこまでは目指していないだろう)。そうはいっても、マイクロソフトのクロスプラットフォーム戦略によりWSLが登場し、開発者向けのツールセットとして急速に進化し、便利になっていると感じているので、ぜひ日常の開発用途で使用してほしい。
【改訂・更新履歴】
- 2016/08/23
-
初版: Windows 10 Anniversary Update対応版
- 2017/04/12
-
第2版: Windows 10 Creators Update対応版
- 2017/10/27
-
第3版: Windows 10 Fall Creators Update対応版
1. Windows Subsystem for Linuxとは? そのインストールと使い方
Fall Creators Updateで正式版として提供されることになった「Windows 10上で動作するLinuxサブシステム」によるBashシェルの基礎を理解・マスターすることをゴールとして、Windows Subsystem for Linux(WSL、旧称:Bash on Ubuntu on Windows)の概要から、インストール方法までを解説。また、よくある疑問をQ&A形式で短くまとめる。
2. 【現在、表示中】≫ Windows Subsystem for Linuxを使って「開発」をしてみよう
WindowsとWSL(Windows Subsystem for Linux)の間でファイルシステムを上手に相互運用するためのヒントや、WSLを活用してクロスプラットフォームな開発を行う方法を説明する。
3. Bash on Ubuntu on Windowsの、Creators Updateでの強化点&新機能
正式リリースされたWindows 10 Creators Updateで、Bash on Windowsはどう進化するのか? その強化点と新機能を紹介する。