Build Insiderオピニオン:arton(2)
ブロックチェーンという用語ロンダリング
最近流行りの「ブロックチェーン」という言葉。ブロックチェーンにはどんな可能性があるのだろうか。
ブロックチェーンが話題だ。
昨年の秋には三菱UFJがブロックチェーン技術の国際団体に加入というニュースがあった。今年に入ってからもJPX、みずほがブロックチェーン技術の実証実験を開始というニュースや、オリックス、静岡銀行らがブロックチェーンでNTTデータらと共同研究などが発表されている。
このブロックチェーン人気について理由を考察したい。
ブロックチェーンの特徴
最初にブロックチェーンとは何かについて簡単におさらいする。次に、それがなぜ人気を呼んでいるのかを考察する。こちらの説明も参考にされたい。
話題となっているブロックチェーンの特徴として語られるのは次の3点だ。
- 分散ネットワーク上で取引が管理されるので部分的な障害は全体に影響しない
- データ管理は全体で行われるため確定データを改ざんすることはできない
- ネットワークを通して全体に情報が伝搬されるためリアルタイム性がある
ここではブロックチェーンの代表とされるBitcoinを例として、上記の3点について考えてみる。
まず中央集権的な管理ノードを持たない分散ネットワークであることはBitcoinの本質である。
というのは、これによって採掘志願者を自由に募ることができ、取引に参加するノードを増やすことができ、確定した取引に保証を与えることができるからである。
確定した取引に保証を与えるノードによって、過去データの改ざんに対して多数決による正当性の保証を行うこともBitcoinの特徴だ。なぜ参加したノードが正当性を保証するかといえば、採掘者にとっては過去に支払われた報酬があること(つまり、正当性を保証することで過去の取引によって得た報酬を守る)、売買するノードについてはその売買の(特に売りによる収入記録)を保持することがインセンティブになっているからだ。
Bitcoinが分散ネットワークに依存しているのは、ノードが増えれば増えるほどCPUが利用できるようになり、それが通貨としての信頼性の向上につながるからであって、分散ネットワークだから部分的な障害に強い……というのは、Bitcoinにとっては主眼ではない。個々の取引所や採掘所についてはデータの送受ができなければ収入を得る機会が失われるので、オンライン状態を保つことはインセンティブになる。しかし目的は採掘による収入や取引手数料の確保なので、耐障害性というのはあくまでも副次的な問題だ。
そして3つ目のリアルタイム性については、Bitcoinにはない。むしろなくすように設計されている。採掘作業がハードウェアの進化があっても10分前後に収まるように調整する機能が織り込まれているのだから、リアルタイムに取引が確定することはあり得ない。なお、Bitcoinですさまじく興味深いのは、採掘者が求めるべきハッシュの先頭を0
の連続にすることで計算の難易度を上げる仕組みだ。ネットワーク全体の計算力が上がると先頭の0の数が増えていく。これはある意味時限爆弾のような仕掛けで、ある時点で唐突に終了が来る。
こうして見てみると、最初に挙げた特徴は、Bitcoinとはほとんど関係ない(上記の特徴は別に、これを書くために作った藁人形というわけではない)。
まとめるとBitcoinの本質は電子取引における次の目的の技術的解決にある。
- 金融機関抜きに相手との直接(ピア・ツー・ピアな)取引を行えること
- 従来の取引では金融機関に対して取引を依頼し、正しく振込先と取引が行われることは金融機関が保証する - 電子署名のような第三者機関(認証局)を不要とすること
- 電子署名によってたがいが正しいことを保証できるのは証明書を発行した認証局の保証による
このために導入されたのが多数の参加者によるピア・ツー・ピアネットワークとブロックチェーン(Bitcoinの場合はハッシュ計算によるプルーフオブワークの最大長チェーン)だ。攻撃への対抗措置としてCPU(端的には電力と時間)を利用する。
ここで大きな疑問が湧いてくる。
金融機関によるブロックチェーン実証実験から見えてくるモノ
なぜ金融機関そのものがブロックチェーンの実証実験をするのだろう?
すでに金融機関であり、その取引先も同じく金融機関であり、BtoBであれば認証局と電子署名で十分ではなかろうか? むしろプレイヤーが多ければ攻撃者の介入もしやすくなる。
ここで実は一口にブロックチェーンといっても、次のような3つの種類があるのではないかという疑問が湧いてくる。
1つはEthereum。成長の仕方によってはWWWの置き換えになっていくのではないかと、筆者は漠然と感じている(スイスの研究所発祥のWWWに対してスイスのNPO発祥のEthreumという連想にすぎないが)。こちらについてはこれ以上の詮索は保留。
もう1つはBitcoinと同じく電子通貨だが、その骨抜き版というか、Bitcoinが最初に排した金融機関と電子署名を復活させて、それに恐らくSMSの電話番号(つまりスマートフォンという個人識別子。2段階認証によってまさか電話番号が復権することになると誰が考えていたのだろうか)を使うことでプルーフオブワーク抜きにしたもの。ある意味においてはクライアント認証を使わないセキュアなクライアント・サーバーである。クライアント認証をスマホの電話番号を利用することで間に合わせ、さらにクライアント側をスマホアプリとして提供すればデスクトップパソコンを利用するCtoBよりはるかにクライアントを信用できるしパイも大きい。これはCの金融取引に対して独占的であろうとするBにとってメリットになるのではなかろうか。
3番目がデータベースの見直しとしてのブロックチェーンだ。Bitcoinによって取引の累積データだけでもある種のアプリケーションには十分だということが実証されたと考えれば、こういうことも考えられるだろう。
まず金の移動ということだけに着目すれば本質的に必要なものは、日時、送り元、送り先、金額の4エレメントにすぎない。いずれも64bitで十分なサイズだ。
これを基に考えると、1取引当たり32bytesが1日10万件で3.2Mbytes。1年で1.2Gbytes未満。10年でもたかだか12Gbytes。パソコンのメモリに収まるサイズだ。それをメモリマップトファイルとして構成する。そのようなパソコンを3台ネットワークにぶら下げるとする。MTBFが1年(1年に1台壊れる)と仮定しても、3台のパソコン全てが同日同刻に壊れる可能性は極めて低い。壊れてもメモリマップトファイルを新たなパソコンに再展開すればすぐにネットワークに参加できる。全ての取引には通し番号が打たれた状態で上記のパソコンのストレージに送られてくる。各パソコンは互いに送信してすでに受信した取引は捨てて、受信していなければメモリマップトファイルの通し番号の位置に格納する。改ざんの可能性を考えなければ、これだけの話で済む(クローズドネットワークであれば)。高速で安価、信頼性も高いオンプレミスウォレットの完成だ。
といった可能性があるのではなかろうか。
世の中には賢い人たちがいるので、ここで書いたようなことをもっと高度にうまい方法でビジネスに結び付けて、そこに適度にアベノミクスで潤った(個々の企業が貯め込んだ内部留保金を貯め込んだ)銀行がいろいろ将来戦略として投資を始めたということなのだろう。
それにしても、不思議なのはピア・ツー・ピアという言葉がほとんど出てこないことだ。Satoshi Nakamotoのペーパーは『Bitcoin: A Peer-to-Peer Electronic Cash System』なのだが、どのタイミングで誰が「ブロックチェーン」という言葉に置き換えるようにしたのか、実に興味深い。
arton
垂直統合システムベンダーに所属し、比較的大規模なOLTPシステムの端末からセンターシステムまでの設計、開発に従事している。著書にJava、C#、Ruby関連のものがある。
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