Windows 10 Anniversary Updateの新機能
Microsoft Edgeの進化 ~Windows標準ブラウザーの最新機能と使い方
Windows 10 Anniversary Updateで、ようやく日常使用に耐えられる機能性と安定性が備わってきたEdge。その最新機能をパワーユーザー向けに概説する。
2016年8月2日、Windows 10の2回目の大きなアップデートであるWindows 10 Anniversary Updateの提供が始まった。Windows 10がリリースされてからこれまでのMicrosoft Edge(以下Edge)の進化と、今回のアップデートでEdgeがどう変わったのかを解説していく。
これまでの振り返り
2013年9月、Internet Explorer 11(以下IE)がリリースされた時に紹介したが、マイクロソフトは過去の遺産を精算して自社のWebブラウザーをモダンブラウザーに生まれ変わらせる方法を探っていた。マイクロソフトは互換性を非常に重視する会社なので、モダンブラウザーへの変革を本気で考えていると評価はしたものの、筆者はこの時、IEはそのまま塩漬けにして、互換性を考えずに済む新しいブラウザーを作ってしまえばいいのにと考えていた。
2015年7月、Windows 10がリリースされ、標準ブラウザーとしてEdgeが提供されて、それが現実のものになった。だがEdgeのプレビューバージョン(当時は“Project Spartan”と呼ばれていた)が公開された時、「これじゃない」と思ったものだ。Webページにコメントを書いて共有できたり、(リリース当初、日本では利用できなかったが)Cortanaと統合されていたりとユニークな機能は持っていたが、突然プロセスごと落ちたり、表示中にページがリロードされたりと不安定な面が目立っていたし、ドラッグ&ドロップがサポートされていなかったり、拡張機能やタブのピン留めなど他のブラウザーでは普通に提供されている機能が提供されていなかったりと、本当の意味での「ブラウザー」以上の機能が提供されていなかった。今でこそXbox OneやHoloLensといったさまざまなプラットフォームで利用できるUniversal Windows Platform(以下UWP)アプリだが、当時はWindows 10 Mobileとの共通化しかされていなかったため、なぜ使いにくいUWPアプリで提供されたのか疑問を感じていた。
2015年11月に、いわゆるNovember UpdateもしくはThreshold 2(TH2)や1511と呼ばれる大型アップデートがあったが、この状況が大きく改善されることはなかった。
その後、Windows Insider Program(以下WIP)で徐々に機能を追加してきた。
そして今日、Anniversary UpdateもしくはRedstone1(RS1)や1607と呼ばれる今回のアップデートにおいて、WIPに参加していないユーザーにもようやく日常使いに耐えられるEdgeになったと考えている。本稿では、今回のアップデートが利用者にとってどう使えるようになったのかを解説していく。
戻る、進むボタンの履歴表示
Edgeのイケてなかった点の1つが、[戻る]ボタンや[進む]ボタンに履歴が表示されなかったため、いくつか前のページに戻るには、戻るボタンをそのページ数分クリックしなくてはならなかったことだ。今回のアップデートでは、[戻る]ボタンか[進む]ボタンを右クリックすると履歴が表示されるようになり(図1)、戻りたいページまで即座に戻れるようになった。
履歴が一覧表示されるため、タイトルから戻りたいページをクリックして1回で履歴のページに移動できるようになった。IEにもあった地味な機能ながらうれしい機能が帰ってきた。
タブのピン留め
ChromeやFirefoxではすでに実装されているが、日常使いのブラウザーでは頻繁に使うサイトを固定的に(=起動時に毎回)表示したい。今回のアップデートでようやく固定タブとしてピン留めができるようになった。
貼り付けて移動、貼り付けて検索
今回のバージョンアップで地味ながらうれしいのが、アドレスバーにペーストした後、Enterキーを押さなくても移動できる機能だ。URLをクリップボードにコピーした後でアドレスバーを右クリックすると[貼り付けて移動]というメニューが表示される(図3)。これをクリックすれば、以前のようにURLを貼り付けた後でEnterキーを押さなくても移動できる。
クリップボードにコピーしたのが、URLではなく文字列の場合は、[貼り付けて検索]メニューが表示される(図4)。これをクリックすれば、デフォルトに設定されている検索エンジンで、貼り付けた文字列を検索できる。
拡張機能
Edgeのリリース当初から最も要望の多かったのが拡張機能のサポートであった。
FirefoxやChromeのブラウザー拡張は、HTMLやJavaScriptといったWeb開発者にとって使い慣れた技術を使って比較的簡単に開発できたため、非常に多くの拡張機能が開発されてきた。
一方、IEのブラウザー拡張は、Windowsのネイティブコードで書く必要があり、アーキテクチャが古く開発が難しかったため、開発者であっても気軽にブラウザー拡張を開発できず、他のいわゆるモダンブラウザーから水をあけられていた。
Edgeのブラウザー拡張については、リリース当初からChromeと同様の拡張機能が使えるとウワサされてきたがなかなか提供されず、初期リリースから1年たった今回のアップデートで正式なリリースとなった。この拡張機能はW3CのBrowser Extension Community Groupとして標準化が進められており、Chromeのブラウザー拡張APIとも似ているため、今回のアップデート後にChrome拡張の移植が進むものと思われる。
まだまだ数は少ないもののEvernote Web Clipperをはじめとするサードパーティの拡張も増えつつある。代表的なものは拡張機能ページ(英語)で紹介されているが(図5)、今後はストアにどんどん追加されていくはずである。ストアに公開される拡張機能はきちんと審査が通っているため、危険なコードが入り込む可能性は非常に低いといえる。
このページの[Open in Store]ボタンをクリックすると、ストアが開いて、拡張機能をインストールできる。
拡張機能をインストールするのであれば、Edgeの右上にある[・・・]メニューからアクセスする方が自然で簡単だ。[・・・]メニューの中に[拡張機能]が追加されているので、ここから追加・管理できる。実際に追加して管理する手順は、以下の画面を参考にしてほしい。
このようにEdgeの[拡張機能]ペインで拡張機能が管理できるようになっている。なお、Windows 10 MobileのEdgeはバッテリー消費量や表示領域の制限などの課題があるため、現時点では拡張機能が提供されていない。
WebM/VP9サポート
WebM/VP9とは、グーグルが開発した動画配信フォーマット/動画圧縮コーデックである。4K動画などの高画質の動画配信のニーズが高まる中、ネットワーク帯域を圧迫しないように圧縮率の高い動画フォーマットが必要となっていることから登場したフォーマットである。
HTML5では<video>
タグがサポートされたため、どのブラウザーでも同じく動画が再生できると考えている方も多いと思う。実際には、コーデックやDRMのサポート状況がブラウザーごとにことなっており、どんな動画でも再生できるわけではない。EdgeがWebM/VP9をサポートしたことによりChromeだけでなくすでに対応済みのFirefoxやOperaとの相互互換性が高くなり、1つのフォーマットで全てのブラウザーに対応できる状況に前進したといえる。
Web通知
デスクトップアプリの更新通知ではデスクトップ上にトースト表示するためのOS標準機能が長らく使われてきているが、Webアプリケーションにはこれと同様の標準的な仕組みが存在しなかった。そのため、(ブラウザーによりポップアップがデフォルトでブロックされるようになる前は)子ウィンドウを表示して通知したり、(それ以後では)ページ内に子ウィンドウを開いたりとさまざまな工夫がされてきた。
今やスマホでもデスクトップ上でも通知は日常的に受け取るものになり、ブラウザーからの通知もWeb NotificationsとしてW3Cの標準化が進んでいて今回の実装に進んだ。現時点ではプレビュー実装となっており、Webページがアクティブになっていない時には通知を受けることができない。将来的にはページを表示していないときにもバックグラウンドから通知できるようになる予定だ。
通知が有効なページを開くと「通知を許可するかどうか」を聞かれるので、許可する場合は[はい]を選択する(図7)。
通知を許可すると、そのサイトから通知が送られてくるようになる(図8の上)。その通知をクリックしなかった場合、(一定時間がたって消えた)その通知のメッセージはアクションセンターに残ることになる(図8の下)。
上: サイトから通知があるとトーストとして表示される。
下: トーストをクリックしなかった場合は、アクションセンターに通知内容が残る。
一度設定した通知のオン/オフを切り替えるには、Edgeの[・・・]をクリックして表示されたメニューの中の[設定]をクリックする。[設定]ペインの中の[詳細設定を表示]ボタンをクリックして、[通知]欄にある[管理]ボタンをクリックすると通知が設定できる(図9)。
Flash広告のブロック
Flashは、動的でインタラクティブなコンテンツを提供し、一時期はほとんどのサイトで使われていたといってもよいほど使われていたが、消費電力の多さや読み込みの遅さが目立つようになってきており、HTML5へ移行する動きが進んでいる。
Edgeはプラグインなしでリリースされたが、まだFlashが使われているサイトが多くあるという理由から、Flashサポートはプラグインではなくブラウザーに組み込む形でリリースされた。今回のアップデートでは、アニメーションや広告などの主要なコンテンツではないFlashを停止する。図10に示すように、停止されたFlash広告は再生ボタンをクリックするまで実行されない
これは、Edgeだけの流れではなく、Chromeは昨年の9月にFlash広告の停止を実施しており、今年の秋にはFlashを使っている主要なサイトを除いてデフォルトでFlashを無効にすると発表している。Safariも次期バージョンであるSafari 10からはFlashをデフォルトで無効にすると発表している。Firefoxも同様に2017年中にFlashを無効にすると発表している。Edgeは、Flashのデフォルト停止のスケジュールが公開されていないが、今後、Flashが停止されることは自然な流れだといえるため、Web開発者は早めの移行を検討してほしい。
グループポリシー
EdgeはIEほど機能が豊富でないということもあり、グループポリシーで設定できる項目(図11を参照)はそれほど多くない。
左側にあるツリービューを見てほしい。([Microsoft Edge]項目の上にある)[Internet Explorer]項目と比べると、[Internet Explorer]にだけ配下に多数のフォルダーが存在し、確かに設定可能な項目が少ないのが分かる。ちなみに、この[ローカル グループ ポリシー エディター]は、Windowsのコマンドプロンプトなどで「gpedit.msc」を実行すると表示できる。
右側にあるリスト表示の内容を見ていこう。これまでのアップデートで利用可能になった構成は以下の通り。
初期バージョンから構成可能
- オートフィルの構成
- Cookieの構成
- トラッキング拒否の構成
- パスワードマネージャーの構成
- ポップアップブロックの構成
- アドレスバーの検索候補の構成
- エンタープライズモードサイト一覧を構成する
- SmartScreenフィルターの構成
- すべてのイントラネットサイトをInternet Explorer 11に送る
TH2(1511)から構成可能
- 開発者ツールの許可
- InPrivateブラウズの許可
- [新しいタブ]ページでのWebコンテンツの許可
- お気に入りを構成する
- ホームページの構成
- ファイルに関するSmartScreenプロンプトのバイパス回避
- サイトに関するSmartScreenプロンプトのバイパス回避
- WebRTCでのLocalhost IPアドレス使用の回避
Anniversary Update(1607)から構成可能
- Microsoft Edgeでabout:flagsページへのアクセスを禁止する
- 拡張機能の許可
- Internet Explorerでサイトを開くときのメッセージ表示
今回のAnniversary Updateで利用可能になった構成の中の一番下についてもう少し分かりやすく説明しよう。社内システムにIE8などの古いバージョンのIEでないと正しく表示されないサイトが残っていることもあるだろう。Edgeの初期バージョンから「エンタープライズモードサイト一覧を構成する」というグループポリシーの構成で、このようなサイトを開いたときには、IEで開くかどうかを確認する図12のようなページが表示されていた。今回追加された「Internet Explorerでサイトを開くときのメッセージ表示」をデフォルトの「未構成」または「無効」に設定すると、IEを開く際のメッセージページ(図12)が表示されずにIEでページが表示されるようになり、これまでと違いよりシームレスに企業内システムを利用できるようになった。これまでと操作手順が変わることに抵抗があるなど、あえて、これまでと同じようにメッセージページを表示したい場合は、この構成を「有効」にすればよい。
グループポリシーで設定できる項目はまだまだ少ないが、今後も徐々に機能が増えていくことになるだろう。
Macでテストするには
Edgeが他のブラウザーと大きく違うのは、Windows 10でしか動作しないことだろう。多くのWeb開発者はMacを使っているため、テストをするためにWindows環境を用意しないといけないと考えている開発者も多いようだ。テストするだけであれば、マイクロソフトからEdgeがインストールされている仮想環境が無償(※利用制限については後述)で提供されているのでそれを使えばよい。以下にVagrantを使う場合の手順を示す。
仮想環境は90日間の評価版であること、さらにテスト目的でしか利用できないことにご注意いただきたい。なお、OSは英語版ではあるが、設定により日本語も問題なく表示できるので安心して使ってほしい。
最後に
Edgeが徐々に進化していて、日常使いのブラウザーになろうとしているのが理解いただけただろうか。ようやく日常使いに耐え得るレベルに到達したEdgeを、ぜひ一度標準ブラウザーとして試してみてほしい。
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