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Build Insiderオピニオン:小川誉久(2)

Build Insiderオピニオン:小川誉久(2)

波に乗っていこう。でも小さな波も起こそう

2014年7月1日

世の中のどんな大波も、元をたどっていけば1人の人間の想像力にたどり着くはずだ。ひとりひとりはちっぽけな存在でも、小さなさざ波くらいは起こせる。

小川 誉久
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 「フィンランドの学生が開発しているPC用のUNIX互換OSがあるんです」

 私がLinuxという名前を初めて耳にしたのは、当時の若手編集者のK君から、新しい記事企画の報告を受けたときだ。90年代中頃だったと思う。

 当時私は、アスキー(現KADOKAWAのアスキー・メディアワークス)でスーパーアスキーという技術者向けの月刊雑誌を作っていた。

 このときPC用としては、すでにMS-DOSやWindowsが広く普及していて、対応アプリケーションも豊富だった。PCユーザーのもっぱらの関心は、GUIを備え高機能だが、あまりに重くメモリ食いのWindows OSや、Windowsアプリケーションをどうしたら速く快適に動かせるのか、ということだった。ソースコードが公開されたUNIX互換OSは、すでにFreeBSD(BSD版UNIXのオープンソース版)などもあり、OSの中身を学ぶ学生には役立つだろうが商業的に成功できる見込みはないだろう、というのがK君の報告を聞いた私の第一印象だ。

 まあ、FreeBSDに関する連載も終了間際だったし、新しい話題を読者にお届けするのも雑誌の役割だから、少ないページ数ならいいか、ということで、Linuxの紹介連載がスタートした。日本にLinuxを紹介する記事としては、草分けの1つだったと思う。

 その後のLinuxの躍進については、ここで述べるまでもないだろう。仕事がらWindowsとの付き合いが長かった私も、今では複数の自社サービス用にLinux OSを使っている。

 別に自身の見込み違いの言い訳ではないが、Linuxの黎明期(れいめいき)にその名を初めて聞いた人の多くは、私と同じような印象を持ったのではないかと思う。リーナス氏や開発コミュニティは、「いまさらそんなことして何になるの」という冷たい逆風にさらされていただろうと思う。そんな世間の逆風をものとせず、信念を持って開発を続けてきたからこそ、Linuxの今があるのだろうなと思う。

 何かの仕事に携わるとき、自身の努力や費やした時間の成果が、できるだけ大きな影響力を持ってほしいし、商業的にも成功させたいと考えるのは当然だ。効率よくこれを狙うには、すでにある製品やサービスがユーザーに受け入れられているのか、ユーザーはいま何をしているのかをよく調べることだ。私たちのようなメディア業なら、自分のサイトでどんな記事のページビューが多いのか、Twitterやfacebookや はてな でどの記事がどれくらい話題になっているか、他社サイトの記事ではどうかなどを調べて、人気の高い記事のテーマや、その記事のキーワードを含むような記事企画を立てる。

 私が若手編集者だった20年前に比べると、インターネットの普及によって、こうした読者動向の調査ははるかに簡単になった。Webサイトのアクセス解析を見たり、キーワードをググって上位リストを見たり、Googleトレンドで検索量を調べたり、Amazonの書籍ランキングで人気書籍をチェックしたりといった具合で、しかもいずれも、ノートPCとネットがあればいつでもどこでも調査できる。会社の図書室で大量の海外雑誌をコピーしたり、高い国際電話で米国のCompuServeに接続して、遅い回線でパソコン通信の掲示板を必死で探したりしていたころが嘘のようだ。

 現実問題、記事へのトラフィックの大多数がGoogle検索を経由してくるわけだから、検索で上位に出ることは非常に大切だし、みんなが検索するキーワードを記事中に含めるのも大切だ。しかし勢い、記事企画や記事制作の活動が「どうすれば世の中の大波に乗れるか」ということばかりになってしまっていいのか、という思いもある。

 世の中のどんな大波も、元をたどっていけば1人の人間の想像力にたどり着くはずだ。ひとりひとりはちっぽけな存在で、成果なんてたかがしれているのかもしれない。けれどそれでも、小さなさざ波くらいは起こっているわけだし、リーナス氏のように、場合によってはそれが時代を変える大きなうねりになるかもしれない。

 「世の中の波にどう乗るか」をもっぱら考えながらも、「どんな波を起こしたいのか」も少しだけ考えながら仕事をしたいと思う。

小川誉久(おがわ よしひさ)

小川誉久(おがわ よしひさ)

(株)デジタルアドバンテージ代表取締役。

カシオ計算機でUNIX系システムの開発に3年間従事し、その後アスキー出版局に転職。書籍『プログラミングWindows』の編集を皮切りに、マイクロソフト系技術書の翻訳編集を手がける。1989年、月刊スーパーアスキーの創刊に参加。WindowsやPC/AT互換機に関する記事を担当した。2000年に独立してデジタルアドバンテージを創立。

現在は@ITでの情報サイト運営、Build Insiderの運営に加え、2010年からはGPSを活用した地図系スマートフォンアプリを多数開発、公開している。

 

※以下では、本稿の前後を合わせて5回分(第1回~第5回)のみ表示しています。
 連載の全タイトルを参照するには、[この記事の連載 INDEX]を参照してください。

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1. 大きいことはいいことだ、った

Webメディアを運営し、スマートフォンアプリ開発を手がける小さな会社の社長の立場から、感じたこと、考えたことなどを書き記すコラム連載スタート。

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2. 【現在、表示中】≫ 波に乗っていこう。でも小さな波も起こそう

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3. Chromebookか、Windowsか

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