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Build Insiderオピニオン:小川誉久(4)

Build Insiderオピニオン:小川誉久(4)

年のはじめに「3分間トイレ学習法」

2015年1月13日

文章を書くときに役立つボキャブラリは、どうやって増やせばよいのか? 実践してみて実際に効果があった方法を紹介する。

小川 誉久
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 原稿書きを仕事にしていると、ときに「ボキャブラリを豊かにしたいがどうすればいいのか?」などと聞かれることがある。メールやメッセージアプリなど、文字ベースのコミュニケーションの比重が大きくなる昨今、TPOに応じて適切な言葉を繰り出せる能力は、相手の同意を得たり、相手を説得したりするために以前より重要なものになっているようだ。

 また本サイトの一色編集長に聞いたところ、技術者が分かりやすい記事を書くために以前に公開した記事「IT技術系ライティング入門」もなかなかの人気と聞いた。そこで私も、書くためのヒントを少しここで書かせてもらおうと思う。

大事なのは表現よりも構造

 いきなりテーマを否定するようで恐縮だが、最初に「ドキュメンテーションで最も重要なのは、表現ではなくて構造である」ことを強調しておきたい。このあたりについては前出の記事でしっかり説明されているのでご参照あれ。どれだけボキャブラリが豊富だったとしても、構造がいい加減なドキュメントは情報として価値がないからだ。表現を追求する前に、まずは文章のロジック(=構造)をしっかり設計することを第一に心がけていただきたい。

図 表現より構造が重要
図 表現より構造が重要

ということで「3分間トイレ学習法」

 その上で、今回は「優れた表現」につながるボキャブラリの拡充法について説明しよう。名付けて「3分間トイレ学習法」だ。これは私が実践して効果があった方法ではあるが、すぐに効果を実感できるというものではない。まあ最低でも1年、普通は3年くらい続けて、初めて効果を実感できるくらいだろうと思う。手順は以下の通り。

1 国語辞典を買う

 書店に行って、手になじみそうな国語辞典を一冊買ってくる。広辞苑のような大作でなくてもいいが、ポケット版のような薄いものより、ある程度ボリュームがあるものがよいだろう。ちなみに私の場合は『角川 必携 国語辞典』(大野 晋、田中 章夫 編)を使っている。

2 赤鉛筆を用意する

 辞書に赤線を引くための赤鉛筆を用意する。赤インクのペンでもいいが、辞書の紙は薄く反対側に透けるので、赤鉛筆がよいだろうと思う。

3 辞書と赤鉛筆をトイレに置く

 用意した辞書と赤鉛筆はトイレに置き、トイレに入ったらいつでもすぐに開けるようにしておく。

4 朝トイレに入ったら、適当なページを開いて見開きにある見出し語を斜め見る

 朝トイレに入ったら、辞書を手に取り、適当なページをバッと開いて、見開きに並んでいる見出し語を斜めに見渡す。全ての文字をじっくり読む必要はない。見出し語を斜めにざざっと見ていこう。

 最初のページから順繰りに見ていってもいいのだが、そうすると疲れて続かないので、適当なところを開いて見る。「昨日は前の方を見たから、今日は真ん中辺、明日は後ろの方」というような感じだ。

5 「こんな言葉がさっと使えたらいいな」「こんなことわざがスルリと出てきたらいいな」と思う単語やことわざに赤線を引く

 見出し語を斜めに見ていくと、「こんな言葉(慣用句、ことわざ)がさっと使えたらいいのになぁ」という見出し語や慣用句、ことわざなどがあるので、それに赤線をひく。私の経験では、1見開きに1つ~3つくらいはこういう部分があるものだ。

 余裕があれば、次の見開き、その次の見開きと進んで同じことをやる。ただし最初に意気込みすぎると続かないので、「毎日最低1見開き」ということでよい。

6 たまたま開いたページが処理済みの見開きなら、赤線を引いた部分を読み返す

 毎日少しずつ続けていくと、たまたま開いたページが処理済み(気になった部分にすでに赤線が引かれている)ということがある。そんなときは、赤線を引いた部分を見返そう。

7 あとはひたすら、毎日毎日続ける

 「3分間トイレ学習法」は以上だ。とにかく継続することが重要である。

 こうして1年も続けると、辞書のページはあらかた赤線で汚れてくる。例えば筆者のトイレにある辞書はこんな感じである。

写真 赤鉛筆で汚れた筆者の辞書

 こうして赤鉛筆で汚れた辞書は、あなたが使いこなしたいと思っている言葉や慣用句、ことわざがぎっしりマークされたあなただけの大切な辞書になる。

 2015年は始まったばかり。今年から試してみては、いかが?

小川誉久(おがわ よしひさ)

小川誉久(おがわ よしひさ)

(株)デジタルアドバンテージ代表取締役。

カシオ計算機でUNIX系システムの開発に3年間従事し、その後アスキー出版局に転職。書籍『プログラミングWindows』の編集を皮切りに、マイクロソフト系技術書の翻訳編集を手がける。1989年、月刊スーパーアスキーの創刊に参加。WindowsやPC/AT互換機に関する記事を担当した。2000年に独立してデジタルアドバンテージを創立。

現在は@ITでの情報サイト運営、Build Insiderの運営に加え、2010年からはGPSを活用した地図系スマートフォンアプリの開発にも携わっている。

 

※以下では、本稿の前後を合わせて5回分(第1回~第5回)のみ表示しています。
 連載の全タイトルを参照するには、[この記事の連載 INDEX]を参照してください。

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1. 大きいことはいいことだ、った

Webメディアを運営し、スマートフォンアプリ開発を手がける小さな会社の社長の立場から、感じたこと、考えたことなどを書き記すコラム連載スタート。

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2. 波に乗っていこう。でも小さな波も起こそう

世の中のどんな大波も、元をたどっていけば1人の人間の想像力にたどり着くはずだ。ひとりひとりはちっぽけな存在でも、小さなさざ波くらいは起こせる。

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3. Chromebookか、Windowsか

「The Network is the Computer」。これはかつてSun Microsystemsが掲げたスローガンだ。そして、まさにネットワークがコンピューティング環境となる時代が到来しようとしている。

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4. 【現在、表示中】≫ 年のはじめに「3分間トイレ学習法」

文章を書くときに役立つボキャブラリは、どうやって増やせばよいのか? 実践してみて実際に効果があった方法を紹介する。

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5. 「ドキュメントは構造が第一」な編集者体験

前回の「3分間トイレ学習法」にそこそこ人気があったようなので、筆者がまだ駆け出しの編集者だった20年以上前のお話をもう1つ。

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